めっきの種類は、用途によって選ばれなければなりません。
めっき | 耐食 | 耐摩耗 | 硬度 | 離型性 | 電導 | はんだ |
---|---|---|---|---|---|---|
亜鉛 | ○○ | |||||
クロム | ○○ | ○○ | ||||
工業用クロム | ○ | ○○ | ○○ | ○ | ||
電気ニッケル | ○ | ○ | ○ | |||
無電解ニッケル | ○○ | ○○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
銅 | ○○ | ○○ | ||||
金 | ○ | ○○ | ○ |
(無電解ニッケルめっきは Ni-P と Ni-B の特長を合わせて記載:後述)
この表はほんの一例のしかも目安です。
めっきにはここに挙げた以外にも多くの種類があり、
電気/無電解/溶融などの工法、添加剤での浴調整、前後処理、皮膜の厚み、
その他条件によって特性は変わります。
全国鍍金工業組合連合会発行の書籍等で充分検討することはもちん、
詳細は実際に相談することが肝要です。
さて、この中の銅めっきと亜鉛めっきについては前節までに例として引いてあります。
この節では、
- クロムめっき/工業用クロムめっき
- 電気ニッケルめっき/無電解ニッケルめっき
について、簡単に紹介しておきます。
【 ① クロムめっき/工業用クロムめっき 】
クロムめっき/工業用クロムめっきは、電気めっきではありますが、
クロムの供給源は陽極ではなくめっき液です(無水クロム酸を補充することになります)。
陽極には不溶性電極(鉛合金や白金など)が使われます。
反応も通常の電気めっきとは少し異なっていますが、
陰極である素地金属の上でめっき金属(この場合クロム)が還元され
析出するということでは同じです。
めっき浴には、無水クロム酸 100 に対して硫酸 1 というサージェント浴を
基本にしたものがよく使われますが、無水クロム酸(六価クロム)の代わりに
三価クロムが使われることもあります。
「電気めっきの記号による表示方法」(JIS H 0404) が表示に規定している
「めっき材質」には、同じクロムでも、
- Cr: クロムめっき
- ICr: 工業用クロムめっき
があります。
クロムめっきの工程だけを見ると主な違いは厚みです。
(クロムめっき:Cr)
装飾用クロムメッキとも呼ばれます。
一般的には、ニッケルめっきや銅めっきを下地として、
その上に形成する 1μm 程度より薄いクロムめっきのことを指します。
装飾性だけでなく、下地めっきの種類や組み合わせによって
工業用クロムめっきよりも高い耐食性を持つことが特徴です。
また、この下地の最初のめっきにニッケルや銅の無電解めっきを用いれば、
素地がABSなどの樹脂であってもその上にクロムめっき(電気めっき)を行うことが可能です。
これは実際に自動車部品で見かけることが多いでしょう。
(工業用クロムめっき:ICr)
硬質クロムめっきとも呼ばれます。
JISでは膜厚 2μm 以上・硬さ HV750 以上とされていますが、
実際には数μm~数百μm と、耐衝撃、耐摩耗、摩擦抵抗、離型など、
幅広い目的(用途)に合わせて適切な厚みが選ばれます。
「電気めっきの記号による表示方法」(JIS H 0404) の
「めっきのタイプ」を表す記号に、
- mc: マイクロクラッククロムめっき
- mp: マイクロポーラスクロム
があります。
これらは主にクロムめっきに用いられる「めっきのタイプ」です。
主には耐食性の向上を目的に適用されますが、その特殊な断面を他の目的に応用することも多いようです。
【 ② 電気ニッケルめっき/無電解ニッケルめっき 】
ニッケルめっきには電気めっきと無電解めっきがあります。
電気ニッケルめっきは(前出のクロムめっきとは違って)陽極から
ニッケルを供給する普通の電気めっきです。
低コストで外観も美しく、全ての特性において特別な要求のない場合に使われるようです。
ワット浴、スルファミン酸浴、ストライク浴、などというめっき浴の名前も有名です。
一方、無電解ニッケルめっきでは、ニッケルに通常リンまたはホウ素が添加され、
比較的厳しい要求特性に対しても広くカバーできるようになるため、
現在非常に広い範囲で使われています。
無電解なのでもちろん樹脂にも適用可能です。
無電解ニッケルめっきではリンを共析させる方法(無電解Ni-P)が
多く用いられ、カニゼンメッキとも呼ばれます。
そのめっき浴は、
- 金属塩:硫酸ニッケル
- 還元剤:次亜リン酸ナトリウム
を主体に構成されます。
ニッケルに関する反応の基本的な考え方は前出の無電解銅めっき(自己触媒型)と
変わりませんが、めっき皮膜がニッケルーリン合金となることによって
特に機械的特性/耐食性を改善します。
一方この還元剤にDMAB(ジメチルアミンボラン)を用いれば、
ホウ素を共析させることもできます(無電解Ni-B)。
このニッケルーホウ素合金は電磁気的に特徴ある特性を発揮します。
以下、リンを共析させた無電解ニッケルめっき(無電解Ni-P)、
ホウ素を共析させた無電解ニッケルめっき(電解Ni-B)、
電気ニッケルめっき(電気Ni)について、めっき皮膜の特性を比較しておきます。
特性 | 無電解Ni-P | 無電解Ni-B | 電気Ni |
---|---|---|---|
Ni重量% | 87-99 | 99.0-99.7 | 99.5-99.9 |
PまたはB重量% | 1-13 | 0.3-1.0 | 0 |
硬度 (Hv) | 500-600(*a) | 700-800 | 150-500 |
耐食性 | ○○ | ○ | ○ |
比抵抗 (μΩcm) | 60(*b) | 5-7 | 8.5 |
磁性 | 反強磁性(*c) | 強磁性 | 強磁性 |
はんだ付 | ○ |
(Ni-PとNi-Bの列の値はPやBの重量%が範囲の中程である場合)
*a) ポストアニール(例400℃1時間)で800-1000程度になる
*b) ポストアニール(例400℃1時間)で半分以下になる
*c) ポストアニール(例400℃1時間)で少し強磁性に振れる