ねじも、他の一般的な金属材料と同様、様々なかたちで破壊されます。
そのうち一般的にみられる破壊には以下の4種類があります。
これらは全ておねじの破壊です。
- 引張による破壊(円筒部/遊びねじ部の破断)
- 引張による破壊(ねじ山のせん断)
- せん断による破壊(軸と垂直方向のせん断)
- 捻りによる破壊(回転方向のせん断)
1.引張による破壊(円筒部/遊びねじ部の破断)
この破壊を対象として、JISにある「ボルト(*1)の強度区分」がよく用いられます。
「強度区分」というあたかも強度を代表しているような名前ではありますが、
これはあくまで引張(ひっぱり)に対する強度です。
せん断(次節3.)や捻り(次節4.)に対しては別の確認が必要です。
さらに、この「ボルトの強度区分」では、破断が起こる場所は
円筒部または遊びねじ部でなければならず(*2)、
同じ引張応力によって起こり得るねじ山のせん断(次節2.)を対象としていません(JIS B 1051)。
すなわち、これは次節以降のテーマですが、引張による破壊
(円筒部/遊びねじ部の破断)を想定してねじを選択することができるのは、
他の種類の破壊に対して充分な強度を担保できる場合に限ります。
【おねじ強度区分】
(JIS B 1051:2000より)
強度区分 | 3.6 | 4.6 | 4.8 | 5.6 | 5.8 | 6.8 | 8.8 | 8.8 d>16 | 9.8 | 10.9 | 12.9 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
呼び引張強さ (N/mm^2) | 300 | 400 | 400 | 500 | 500 | 600 | 800 | 800 | 900 | 1000 | 1200 |
最小引張強さ (N/mm^2) | 330 | 400 | 420 | 500 | 520 | 600 | 800 | 830 | 900 | 1040 | 1220 |
呼び降伏点 (N/mm^2) | 180 | 240 | 320 | 300 | 400 | 480 | 640 | 640 | 720 | 900 | 1080 |
最小降伏点 (N/mm^2) | 190 | 2470 | 340 | 300 | 420 | 480 | 640 | 660 | 720 | 940 | 1100 |
表中に数字が無くても、強度区分の数字だけで「呼び」とされる値が
表現されていることを確認しおいてください。
それは以下のとおりです。
- 強度区分の小数点より上の数字(4.8なら4)は、呼び引張強さ 400(N/mm^2) の 100 の位を示しています。
- 強度区分の小数点より下の数字(4.8なら0.8)は、それに対する呼び降伏点の比です。
(注意1)
「呼び」の行はその名のとおり目安にしかなりません。ここでは「最小引張強度」「最小降伏点」の行を見てください。また、「最小」(*3)というのは、最小でもこの値を特性として持っている(持っていなければならない)(満足する)というくらいの意味です。
(注意2)
この表にある値は全て応力 (N/mm^2) です。用いるねじの有効断面積をこの値にかけ合わることによってはじめて、力 (N) として他の力と比較することができます。すなわちこの表は材料自体の強さをランク分けし番号を付けただけのものです。実際、JIS B 1051 には、この強度区分と材料及び熱処理との詳細な対応表が掲載されています。強度区分は、ねじに関する何らの情報を持っているわけでも、特性を表現しているわけでもありません。
(注意3)
表題の「強度」という単語ですが、これだけでは様々な解釈がなされてしまいそうです。「特性」として見ておくのが良いでしょう。「降伏点」、「引張強さ」というのは共にこの特性の中の特徴的なポイントを表しています。
(用語解説「弾性変形と塑性変形」を参照のこと)
例えば、引張方向に 2000(N) の、繰り返し片振り荷重を受けるとします。
このとき、メートルおねじで強度区分 10.9 のものを用いるとしてそのサイズを選んでみましょう。
上の表から、強度区分 10.9 の最小降伏点は 940(N/mm^2) です。]
繰り返し片振り荷重に対して適用すべき安全率(*5)を 5 として、
940 を 5 で割った値 188(N/mm^2) で最悪の場合降伏点に達してしまう、
と考えておけば良いわけです。
188(N/mm^2) で 2000N を受けるには、10.64(mm^2) の有効断面積が必要になります。
M4.5はJISの推奨から外れていますので実際にはM5が良いでしょう。
確認のため、選んだM5(有効断面積=14.2(mm^2))から耐引張り荷重を逆算しておくと、これは2670(N)になります。
同様に、サイズを優先して強度区分(材料)を選ぶことももちろん可能です。
*1)
「ボルト」と「ねじ」という用語の使い分けは、残念ながらいまだに(JISの中でも)あいまいなままです
*2)
試験方法はJISで定められており(JIS Z 2241)、破断するまで加重されます。
*3)
「最小」という二文字で放り投げるような表現はいささか独りよがりで、これを使う側にとっては混乱の元にもなっているようです。どういうグループの中で何が最小なのか想像できないからです。特性の提供なのか/使用方法として要求しているのか、によっては逆の意味になったりもします。
*4)
おねじの有効断面積とは、有効径で囲まれた円の面積のことではありません。これは有効径と谷径との中間の径で囲まれた円の面積のことです。呼び径とピッチとから計算することもできます。これらの関係と有効断面積にについては前節を参照ください。
*5)
ここでは、鋼に対して繰返し片振り荷重を与える場合のアンウィンの安全率 5 を適用しました。
(用語解説「安全率」を参照のこと)