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2025.8.18
技術情報
めっきの前処理には大きく分けて2つの役割があります。 所望のめっき皮膜を形成するには、めっき浴にに浸漬する素地金属の 表面に余計なものが付着していては困ります。 素地金属とめっき皮膜との密着性が低下したり、 不純物の混入/反応の阻害/異なる化学反応などでめっき皮膜の質が変化したりするからです。 実際に、「密着不良の半分以上はめっき前処理に原因がある」として めっき前処理を重点的に整備している業者も多くあります。 また、素地金属の表面はめっきに対してできるだけ活性でなければなりません。 そのために、素地金属の表面形状を新たに作り直す(掘る/荒らす)こともめっき前処理の役割です。 めっきの種類が違っても基本的な考え方は変わわりません。
表面に付着した有機化合物(加工時に付着した油脂など)を除去します。
素地が金属の場合、加工または保存時の空気/水分/熱によって 表面にできた不働態層やサビなど、酸化物を除去します。 金属の種類にって塩酸や硫酸などを使い分けます。
素地表面を、「めっき」に対して活性となる状態に整えます(おもに表面を荒らします)。 めっき金属の密着性を良くすることや触媒核を定着させることなどが目的です。 素地が金属の場合、上記2と連続して(同時に)行われることもあります。 素地が樹脂の場合、たとえばABS樹脂表面のブタジエンを選択的に溶解させて荒らします。
「電気めっきの記号による表示方法」(JIS H 0404) には、 「後処理をを表す記号」という項目があります。 そのうち、よく使われる3つの後処理を簡単に紹介します。
めっきでは、酸洗、陰極電解洗浄、アルカリ性めっき浴など、 多くの工程で素地金属が水素イオンに晒されます。 水素イオンは陰極で還元され水素原子として素地金属に吸蔵されますが、 素材によっては(特に鋼材である場合)、 吸蔵された水素は材料の水素脆化を引き起こして延性や靱性を損ないます。 熱を加えてこの水素を追い出してやろうというのが 「水素除去ベーキング」です。 加熱の正の効果として、水素除去だけでなく、格子欠陥の除去、 内部応力の暖和、再結晶化などが意図(期待)される場合があります。 リン共析無電解ニッケルめっきでは硬度も上がります。 一方、負の効果としては、たとえばクロムめっき皮膜などで 逆に硬度が低下する現象があげられます。 これらを合わせて制御するため、加熱の温度や時間は充分に 管理されていなければなりません。 また、めっき皮膜が下地の水素を透過しにくい場合(亜鉛めっきなど)は、 工程内のどの位置でベーキングを行うかも重要なポイントになります。 ベーキングが「めっきの後の処理」でない場合もあるということです。
クロメート処理は、特にめっき金属の上に施すためのものではなく、 様々な素材に対して一般に用いられる化成処理です。 素材としては、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、ニッケルなどに適用することができます。 めっきの後処理としては、クロメート処理は亜鉛めっきに対してよく使われます。 亜鉛めっきは「犠牲防食作用」で鋼を錆から守るコストの低い優れた方法ですが、 これだけでは亜鉛めっき皮膜自体の表面がすぐに酸化亜鉛や塩基性炭酸亜鉛で 白く濁り(白濁/白斑)外観を損ねます。 クロメート処理はこの亜鉛表面に、
などの効果をもったクロメート皮膜を形成し、亜鉛メッキの応用範囲を大きく広げました。 クロメート処理では、クロム酸を主成分としたクロメート処理液に素材を浸漬します。 素材の表面では、処理液に晒された素材の金属(陽極)が溶解することで クロム酸イオンが還元され(陰極)(*1)、それによってクロム水酸化物ができます。 このとき表面に沈積する皮膜は、そのクロム水酸化物を主体として 素材の金属イオンやその他の添加物が水酸基や酸素を媒介に架橋したものと言われています。 沈積しただけの皮膜はまだ充分に結合しておらず、素材との密着も良くありません。 これを次に温風乾燥や加熱といった工程に通すことによって、 皮膜の脱水縮重合が促進され、素材に強く密着すると共に所望の特性を 持ったクロメート皮膜が形成されます。 光沢クロメート(ユニクロ)はクロメート皮膜が最も薄く外観は 金属色を保っていますが、耐食性が良くありません。 有色クロメートはクロメート皮膜が比較的厚く干渉色によって外観を損ないますが、その分耐食性に優れています。
クロメート皮膜に取り込まれるクロムは還元された三価のものが主体ですが、 化成液がクロム酸であることから六価のままのクロムも混入しています。 欧州における、ELV(自動車)、RoHS(電子機器)、WEEE(電子機器廃棄回収)などの 規制を受ける場合は、三価クロム化成処理(*2)など代替技術を考える必要があります。
「クロメート」とは六価であるクロム酸にもともと関係のある名称であり、 実際の「クロメート処理」もそのクロム酸を用いたものです。 したがって「三価クロメート」と呼ぶ事はあまり勧めらておらず、 「三価クロム化成処理」が正しいとされています。 三価クロム化成処理は、コスト、耐食性(自己修復性は六価クロムイオンの浸出に依存する)、 外観(発色)などの点で、まだクロメート処理に劣る部分があるようです。