次に、溶剤(溶媒)についてです。
我々一般消費者が普通に手にする塗料のバインダーは、多くが合成樹脂に分類されます。
そして合成樹脂がまだ「塗膜」でなく「塗料」である段階では、
溶剤の種類や有無が「塗料」の形態や形成方法を支配しています。
溶剤が揮発して無くなることによって、凝集や化学反応を開始させたり、熱的な反応と同時に溶剤が揮発したり、塗装における溶剤の振る舞いは様々です。
ここではまず、溶剤そのものについて簡単に整理をしておきます。
溶剤と溶質との関係は意外に複雑で、樹脂を溶かす力の強い溶剤/弱い溶剤、というランク付けができません。
これに目安を付けようとするのが溶解度パラメータ(SP値またはHSP値)であり、
その値が近い溶剤と溶質の組み合わせがよく溶け合うとされています。
ただし、この値も目安でしかないことには気を付けておかなければなりません。
(例えばPTFEはガソリンなど低分子アルカンにもよく耐えますし、
アクリル樹脂はメタノールに溶けます。)(*1)
溶質 | SP値 | 溶剤 |
---|---|---|
PTFE ブチルゴム ポリエチレン アクリル樹脂 ポリスチレン ニトロセルロース エポキシ樹脂 ポリウレタン ABS フェノール樹脂 ナイロン66 | 6 7 8 9 10 11 23 | ガソリン、n-ヘキサン、n-オクタン イソプロパノール 水 |
SP値:(cal/cm3)1/2
また、SP値でなく、塗料によく使われるアクリルやウレタン(SP値が9~10)に注目して、
これらをよく溶かす溶剤を強溶剤、比較的溶かす力の弱いものを弱溶剤という分け方もあります。
強溶剤:トルエン、キシレンなど芳香族炭化水素、エステル、ケトンなどで構成
弱溶剤:脂肪族炭化水素の比較的多い石油系炭化水素で構成
(*1)
溶解度パラメータは、
- 極性
- 水素結合力
- 分散力
に依存します。
溶剤や溶質の溶解度パラメータがあまり明確では無い場合、
それぞれの極性だけでざっくりとしたイメージが語られることもありますが、
それが参考になるケースはさらに限られるでしょう。
-極性溶剤-
水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ケトン基、エステル基を持った溶剤。
双極子を形成し、同様に高い極性を持った樹脂
例:ニトロセルロース
を溶解する。
-非極性溶剤-
双極子能率(誘電率)の低い溶剤。
同様に極性の低い樹脂
例:長油性アルキド樹脂
を溶解する。