前節では、音の大きさとして「騒音レベル」を用いました。
これはどのような単位なのでしょうか。
また、音には周波数があり、聞いたときに感じる音の高低がこれを反映しています。
この節では、音の大きさ、高低、といった音の基本的な性質をまとめます。
大きさ
振動する媒体(たとえば空気)があってはじめて音は伝わります。
音源はこの媒体に圧力を加えることによってこれを動かす(振動させる)
わけですが、音が伝わるということは、圧力の変動が媒体によって
順々に伝わってゆくということです。
媒体上のある点でのこの圧力変動の実効値を「音圧」と言います(*1)。
圧力の単位はパスカル(Pa)です。
音圧の単位もパスカル(Pa)です。
音圧は電圧と同じく「圧」であってパワー(仕事率)ではありません。
光もそうですが、人が音を感知するその大きさの範囲は非常に広く、
100万ー1000万倍のレンジで音圧をカバーすることができると言われています。
また、音が大きくても小さくても、弁別能力(大きさを聞き分ける能力)は
その大きさにほぼ比例して発揮されます。
すなわち、人が音の大きさを感じる尺度(感覚量)は、
物理的な大きさである音圧の対数で表すのが最も適しているということです
(フェヒナーの法則)。
これが日頃よく耳にする「デシベル」(dB)という単位、音圧レベルです。
音圧レベル PE(dB)は、人がほぼ聞こえなくなる音圧、
PE0 = 2 x 10-5 (Pa)
を 0db として、
PE = 20 x log(PE/PE0) (dB)
で定義されています。
パワーになる前なので係数が20であることも含め、
考え方は電圧の場合とまったく同じです。
高低
媒体の粗密が振動するその周波数によって音の高低は感じられます。
本章にはあまり関係ありませんが、ある音の周波数を高くしてゆくと、
あるところで元の音ととてもよく似た「感じ」に聞こえる周波数があります。
それは元の周波数の2倍の周波数の音であり、
これらの音の間隔が「1オクターブ」と呼ばれるものです。
さて、我々が普通に聞く音には、周波数の高い音も低い音もあります。
周波数が高すぎる音は人には聞こえません。
逆に低すぎても人には聞こえません。
すなわち人の聴力においては周波数についても可聴範囲があるわけですが、
可聴範囲はある周波数できれいに区切ることができるわけではありません。
「聞こえる度合い」は連続的でなだらかな周波数依存性を持っており、
したがって、同じ音圧レベルであっても周波数が違えば人がそれを
感じる度合いは違ってきます。
実際の物理的な音圧レベルに対し、それを人の聞こえる感度の周波数特性に
似せて補正したものを「騒音レベル」または「A特性音圧レベル」と呼びます。
この補正によってはじめて、人が感じる、または人に影響する音の大きさを
表現する事ができるようになります(*2)。
前節で比較した「騒音」は人への影響を議論するためのものなので、
まさしくこの値を使わなければなりません。
ここまでは、ある特定の周波数(高さ)を持った単独の音の例でした。
しかし我々が聞く普通の音には、様々な周波数の音が種々入り混じっています。
それは周期的複合音の源である高調波によるものかもしれませんし、
全く異なる音源が複数存在することが原因かもしれません。
この節の前半では音の大きさをとりあげましたが、
様々な周波数の音圧が同時に同じ場所に存在する場合、
各周波数の音圧の2乗(*3)を全て加算するだけでその値を
「音の大きさ」として評価して良いものなのでしょうか。
全く同じ周波数の音が複数重なるという特殊な状況(*4)を除けば、
それは正しい方法です。
音圧を正弦波とすると、周波数の異なる複数の音圧について
そのパワーの合計を計算する場合、音圧を加算(合成)してから
2乗するのも2乗してから加算するのも同じことになるからです(*5)。
このあたりは交流回路で慣れている方も多いと思います。
*1)
圧力の絶対値ではなく変動の実効値なので同じ「圧」というには
抵抗があるかもしれませんが、「直流電圧」と「交流電圧」の関係も同じ考え方です。
*2)
「騒音レベル」や「A特性音圧レベル」は、
「人の感度で補正」という面では、光で言うところの「照度」と同じ考え方と
役割を持っています。ただし照度はパワー(仕事率)です。(*3)
*3)
音圧も、電圧と同じく、「圧」の実効値を計算するときの
平方根をとる前、すなわち「圧」の実効値の2乗がパワーであることに
注意してください。
*4)
同じ周波数で逆位相の波は元の波と打ち消し合い、音圧は小さくなります。
このことを利用して積極的に音を小さくする防音方法もあります
(アクティブ・コントロール)。
*5)
例えば2つの周波数 ω1 と ω2 について、加算してから二乗するとこうなります。
A12sin2ω1t + 2*A1sinω1t*A2sinω2t + A22sin2ω2t
第2項は平均する(積分してからその区間長で割る)と 0 です。
残る正弦波の二乗の項である第1項と第3項については、
加法定理によって次数を下げると、
A2sin2ωt = A2( 1/2 – cos(2ω)/2 )
となり、平均すると定数 A2/2 が残るだけとなります。