規格【ねじ-02】

一般的なねじでは、(大体は)径の比較的大きい部分が片側にあります。この部分には、ドライバーやスパナを噛ませてこれを回すための形状が造り込まれており、また、回し入れを最後に止めて締結の圧縮力を生むストッパーにもなっています。そしてもう片方が、「ねじ」の「ねじ」たる役目を受け持つ部分です。こちらには、円柱の周に沿って螺旋状に山と谷(ねじ山)が形成されています。あまり世間に広く受け入れられている呼び名ではないかもしれませんが、前者を「頭」(頭でない部分を「軸」)、後者を「ねじ部」と呼ぶことがあるようです。ここで話題にするのは、まずは「ねじ部」についてです。

ねじを購入すると、袋や箱のラベルにある記号数値の中で最も目立つのが、ねじ部の仕様です。
それが、

M3×16

 だったりすると、
「直径3mmの、16mmは長さかな...」
と、だいたいは何のトラブルも無く、仕事は平和に進むものです。

しかし、 

M8×1

M8 12.9

M8×16

などが並んでいたりすると、ちょっとビビって箱の中を確かめるかもしれません。
(注:多くの表示には、多少ルールを無視してでも表現したい何かがあるということです。)

あるいはさらに、
「そこだけ旧JISだからお願いね」
とか、
「うちはISO使わないからよろしく」
とか突き放されてしまうとこれはもうさっぱりです。

あきらめてちゃんと調べるしかありません。

そこで、まずはJISとISOについてです。 
それぞれ、 
 【JIS】日本の工業標準化法という法律で定められた規格 
 【ISO】国際標準化機関、またはそこで定められた規格 
のことを言います。 

最初にいきなりまとめてしまうと、「ねじ」に関するJISとISOについては、 
 ・JIS規格だけでISO規格を表現できるようになっている 
 ・同じ規格でもいろんな通称で呼ばれてしまっている 
というところがポイントと言えるでしょう。 
このことについては、少しだけその経緯を知っておくと良いかもしれません。 


「ねじ」の規格化:ミニ近代史

1947年、ISOは正式に設立され、1949年、ISO/TC1(Screwthreads)、および ISO/TC2(Fasteners) の第1回会議が開かれました。TC1では、
 ・基準山形/ピッチ/直径の種類を最小にし、
 ・全ての分野の技術的条件を満足しながら
 ・国際的に互換性のあるねじ系列を定める
ことを目標に、活動が始まりました。
TC2は、
 ・ボルト/ナット/小ねじ/座金/ピンなど、締結用部品の国際規格
を作成する委員会です。

そして1957年、ISOは、以下2系統の規格を定めました。
 ・インチねじ
 ・メートルねじ
ISOインチねじは、元は、米/英/カナダが特に軍事上共有していた規格である「ユニファイねじ」です。産業革命を率いたイギリスの「ウィットねじ」はここで選に漏れています。
一方のISOメートルねじは、チェコ/デンマーク/ドイツ/フランス/イタリア/オランダ/ノルウェー/スウェーデン/スイス/フィンランド/ソ連が参加していた規格「ISAメートルねじ」を前身としています。
戦前から戦後にかけて、当時の軍事と物流の有り様が一本の映画にでもなりそうです。

日本では、1949年に工業標準化法が施行されます。
当初は、
 ・メートルねじ
 ・ウイットねじ
 ・ユニファイねじ
がJISとして制定されていました。これがいわゆる「旧JIS」と呼ばれるもので、このメートルねじには、ISOメートルねじとピッチの異なる部分がありました。
そして1965年から、上記ISOのインチ/メートル2系統化を受け、
 ・メートル並目ねじ(ISOではメートルねじ)
 ・メートル細目ねじ(ISOではメートルねじ)
 ・ユニファイ並目ねじ(ISOではインチねじ)
 ・ユニファイ細目ねじ(ISOではインチねじ)
 ・ミニチュアねじ
 ・管用平行ねじ
 ・管用テーパねじ
がJISに定められます。これが現行のJISです。そこでは、ISOと同じであった規格は受け継がれ、ISOにしかなかった規格は新設され、逆にISOに無かった規格は(追って1968年に)廃止されました。この時点で、ねじに関しては、JISはISOとほぼ同じ規格を持つに至ります。

現行JISでは、ユニファイねじは航空機用など特別な場合だけに用い、できるだけメートルねじ(ISOメートルねじ)に一本化するという姿勢で全体が編成されています。また現行JISは2001年、メートル並目ねじ[JIS B 0205]とメートル細目ねじ[JIS B 0207]を廃止し、一般用メートルねじ[JIS B 0205-1から4]を制定しました。並目と細目と別れていた名称を、ISOに倣って一本化したことになります。実際には例えば[JIS B 0205-2 : 2001]の表中に”並目””細目”という表現が残っていますが、これは以下の但し書き付きで便宜的に用いられていることに注意してください。

“並目 (coarse) ”及び“細目 (fine) ”という用語は、従来の慣例に従うために使用した。しかし、これらの用語から、品質の概念を連想してはならない。“並目 (coarse) ”ピッチが、実際に流通している最大のメートル系ピッチであることを理解しなければならない。

この節でとりあげてきたのは一般用メートルねじです。
これを合わせ、以下が整理された現在の代表的なねじの体系です。
(特別なものを除きます)

  • 一般用メートルねじ(ISOではメートルねじ)
  • ユニファイ並目ねじ(ISOではインチねじ)
  • ユニファイ細目ねじ(ISOではインチねじ)
  • ミニチュアねじ
  • 管用平行ねじ
  • 管用テーパねじ

これまでの経緯により、各国での表記方法や慣習の違い、それに特別な場合を除けば、「ねじ」については、ISOが定めた規格を今とりたてて議論する必要は無い、ということがわかります。さらに、国内の新旧についても、「1965年より前の「旧JIS」と区別するため現行JISのねじ頭部には・マークを付ける」、という指示すらも今は既に無くなっており、古い製品のメンテナンス以外で「旧JIS」を使うべき理由は見当たりません。
(注:「旧JIS」という表現や指定に遭ったとき、それは本当に1965年より前の「旧JIS」でのみ存在した規格のことを言っているのか、それとも、「旧JIS」にも「現行JIS」にも載っていて今はあまり使われないピッチなどをただ指しているだけなのか、そのあたりを忖度しなければなりません。)

慣習や決まり事、またはローカルなル-ルや表現にとらわれ複雑な体系を自らの足枷としてしまうのではなく、ISOにならって整理された現行のJIS規格を正しく理解しておく、そうやって産業の将来に資することがまさしくJISの求めるところと言えるでしょう。

次節では、このJIS規格について具体的にまとめたいと思います。

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