- A. 電気めっき
- B. 無電解めっき(置換型、還元型)
- C. 溶融めっき
B. 無電解めっき
前節「電気めっき」で出てきた標準電極電位を背景に極板やめっき金属の種類を考えてみると、
もともと内部にそのような電位差があることから、
外から電圧を加えないまま自然にめっきが進む可能性にも行き当たります。
実際このことは「置換型」の無電解めっきとして実現されています。
標準電極電位の低い素地金属を、標準電極電位の高いめっき金属の
イオンを含む溶液に浸すことによって、まず素地金属が酸化されて(電子が奪われて)溶解し、
次にその電子によってめっき金属イオンが還元され(電子を受け取り)、
素地金属の表面に析出します。素地金属が還元剤として働いているわけです。
置換型無電解めっきは一般に厚みや反応速度の自由度が高くなく、
多孔質で密着性もあまり良くありませんが、標準電極電位の高い貴金属で
この現象は起こり易く実用化もなされています。(*1)
一方、工業用に多くの分野で広く使われているのは「自己触媒型」無電解めっきです。
こちらはきわめて多くの種類の金属をめっき金属とすることができ、
共析元素との組み合わせによって様々な特性(機能)をめっきに持たせることも可能にしています。
この節では、無電解めっきの代表として、自己触媒型無電解銅めっき(*2)をとりあげ、簡単にまとめておきます。
自己触媒型無電解銅めっきの概要
金属塩:CuSO4
還元剤:HCHO(ホルムアルデヒド)
[陽極反応]
溶液中にある還元剤は酸化されることによって電子を放出します。
これは、電気めっきの陽極付近で起こる反応と同じ役割を果たします。
陽極反応が溶液全体でなく専ら素地の表面で起きるように、
素地表面には触媒核(パラジウム混合触媒など(*3))が予め塗られています。
こうすることによって陽極反応は素地表面で始まります。
そして(後述する陰極反応としての)銅の析出によって今度は銅自身が
触媒となり(*3)、この陽極反応は素地表面で持続することになります。
2HCHO+4OH– → 2HCOO–+H2+2H2O+e–
[陰極反応]
溶液中の金属めっきイオンが、還元剤から放出された電子を受け取り、
その場所で析出します。
これは電気めっきの陰極と同じ役割です。
電子を受け取る場所が素地表面なので、析出する場所も素地表面です。
Cu2++2e– → Cu
[その他の浴成分]
錯化剤:EDTA、ロシェル塩など
- 金属イオンの安定化
- 不純物イオンの沈殿
pH調整剤:水酸化ナトリウムまど
- 反応速度調整
添加剤:2,2′-ジピリジル、グリシンなど
- 平滑性、硬度、光沢、応力の調整
*1)
置換型無電解めっきを積極的に使うことはあまりないかもしれません。
置換型無電解めっきという現象は、期待しない場所で緻密性や密着性に
問題のあるめっきがなされてしまう原因でもあり、
むしろそれを避けなければならない場合も多くあります。
例えば、鉄(標準電極電位-0.44V)を素地金属、銅(標準電極電位+0.34V)を
めっき金属とすると、このままだと置換型無電解めっきが勝手に進んでしまいます。
それでも銅の電気めっきや自己触媒型無電解めっきを望みどおりに行うため、
- アルカリ浴
→ 鉄の表面に不働態皮膜 - トリシアノ銅イオン(錯イオン) 強い溶媒和
→ 銅の電位が-1.09まで卑になります。
などを用いてめっき浴の調整が行われます。
*2)
自己触媒型無電解銅めっきの用途で代表的なのが、プリント基板に使われる配線です。
プリント基板ではそれ以外にも多くのめっきが用いられていますので、
ここで合わせて紹介しておきます。
以下、おおよそ工程順にリストします。
- 電解銅箔(電気銅めっき)
元々の(パターン前)銅箔シート - スルーホールめっき(無電解銅めっき)
多層基板間の結線 - 無電解ニッケルめっき
配線パターンの特定の部位 - 無電解金めっき
配線パターンの特定の部位
*3)
銅やパラジウムは、いずれも触媒活性を有する金属です。