部品を外注する際の指定として、あるいは製品に施された処理の表示として、めっきでは次のような記号を見ることがあります。
イ: Ep-Fe/Cu20,Ni25b,Cr0.1r/:A
ロ: Ni5b/CM1:A
ハ: Ep-Fe/Zn[2]/CM2:C
これらは全て JIS によって定められた表示です。このうちイとロは同じもので通常はこれを使うよう指定されていますが、ハは「当分の間この順序によってもよい」(JIS H 0404) とされている表示です。これらの他にも、メッキ業者が顧客に対して独自に要求するフォーマットがあったりするようです。この節では、現在確実に通用する表示方法、イとロについてまとめます。
該当する章の題名は「電気めっきの記号による表示方法」(*1)です。定められた表示方法は以下のとおりですが、この規定では、「特に表示の必要がない記号は省略してもよい」とされており、それが上記イとロの違いです。
(JIS H 0404 より抜粋)
Ep | – | Fe | / | Ni | 25 | b | / | CM1 | : | A |
① | – | ② | / | ③ | ④ | ⑤ | / | ⑥ | : | ⑦ |
①電気めっきか無電解めっきかを表す記号
記号 | 意味 |
---|---|
Ep | 電気めっき |
SPLE | 電気めっき |
ELp | 無電解めっき |
SPLEL | 無電解めっき |
・多層めっきで電気めっき/無電解めっきが混在する場合は最終の工法を表示します。
②素地を表す記号
記号 | 意味(元素記号が表す金属 またはこれを主成分とした合金) |
---|---|
PL | プラスチック |
CE | セラミック |
(記号の例) | (意味) |
---|---|
Fe | 鉄、鋼またはその合金 |
Cu | 銅またはその合金(*2) |
Zn | 亜鉛またはその合金(*2) |
Al | アルミニウムまたはその合金(*3) |
Mg | マグネシウムまたはその合金(*3) |
PL | プラスチック |
CE | セラミック |
③めっきの材質を表す記号
記号(元素記号) | 意味(元素記号が表す金属) |
---|---|
Cu | 銅めっき |
Ni | ニッケルめっき |
Cr | クロムめっき |
Zn-Ni | 亜鉛-ニッケル合金めっき |
Au(75)-Cu | 金(75%)-銅合金めっき |
ICr | 工業用クロムめっき |
E-Au | 工業用金めっき |
④めっき最小厚さ
記号 | 意味 |
---|---|
数字 | めっき最小厚さ(um) |
⑤めっきのタイプを表す記号
記号 | 意味 |
---|---|
b | 光沢めっき |
s | 半光沢めっき |
v | ビロード状めっき |
n | 非平滑めっき |
m | 無光沢めっき |
cp | 複合めっき |
bk | 黒色めっき |
d | 2層めっき |
t | 3層めっき |
r | 普通めっき |
mp | マイクロポーラス |
mc | マイクロクラック |
cf | クラックフリー |
(③④⑤) -多層めっきの場合-
多層めっきの場合は、③④⑤ のセットを素地から表面に向かって順に左から右へ、”,” を介して並べます。電気めっきと無電解めっきとが混在する場合は、①と異なるめっきの記号の前に “-” を介して電気めっき/無電解めっきを示す記号を付けます。
(記号の例) | (意味) |
---|---|
Ni5b,Cr0.1r | --表面-- 普通クロムめっき0.1um以上 光沢ニッケルめっき5um以上 --素地-- |
Cu10b,Ni15d,Cr0.1mp | --表面-- マイクロポーラスクロムめっき0.1um以上 2層ニッケルめっき15um以上 光沢銅めっき10um以上 --素地-- |
ELp-Ni15,ICr20 | --表面-- (電気)工業用クロムめっき20um以上 無電解ニッケルめっき15um以上 --素地-- |
⑥後処理をを表す記号
記号 | 意味 |
---|---|
HB | 水素除去ベーキング |
DH | 拡散熱処理 |
CM1 | 光沢クロメート処理 |
CM2 | 有色クロメート処理 |
PA | 塗装 |
CL | 着色 |
AT | 変色防止処理 |
・複数の後処理を行う場合は、この記号を素地から表面に向かって順に左から右へ、”,” を介して並べます。
⑦使用環境を表す記号
記号 | 意味 |
---|---|
A | 腐食性の強い屋外環境 |
B | 通常の屋外環境 |
C | 湿度の高い屋内環境 |
D | 通常の屋内環境 |
*1)
表題は「電気めっき」ですが、無電解メッキについても表示方法は規定されています。
*2)
銅合金と亜鉛合金とは重なりません。
[銅合金]
Cu を主成分として Zn の量を見ると、
純銅:0%
丹銅(C2100-C2400):4-20%
黄銅(真鍮):20-40%
と、Zn の比率がある程度まで大きくなってもそれぞれが製品としての特性を発揮します。45% 程度が限界(脆くなる)と言われています。
[亜鉛合金]
一方反対側から Zn を主成分として見ると、代表的なダイカスト用亜鉛合金 ZDC1、ZDC2 で Cu の比率は 1% 程度以下です。(多いのは Al で 3-4%)
*3)
アルミニウム合金とマグネシウム合金とは重なりません。
[アルミニウム合金]
展伸/切削用では、Cu(2000番台), Mg(5000,7000番台), Zn(7000番台) のいずれかが主な副成分となって特性を担いますが、どれも最大で数%です。鋳造/ダイカスト用では、最大20%の Si がそれらに加わります。
[マグネシウム合金]
副成分は、代表的な AZ91 の中の Al が最も多く、それでも 9% です。